2026年6月21日 日曜日
AI時短ラボ
研究· 約11

「AIで仕事がなくなる」は本当か──McKinseyの「30%が労働力減少を予測」を読み解く

McKinsey State of AI 2025調査で、回答企業の中央値30%が「来年AIで自部門の人員が減る」と回答。ただしこの数字は企業全体の3%以上削減を指す回答者は32%にとどまり、13%は逆に増員を見込む。数字の読み方を分解する。

McKinsey State of AI 2025(2025年6月〜7月実施、105カ国1,993名回答)によると、ビジネス機能別にみた回答の中央値として30%の回答者が「来年、自部門の人員がAIにより減少する」と予測した。ただし、企業全体での3%以上の人員削減を見込む回答者は32%にとどまり、43%は「ほぼ変わらない」、13%は「増える」と答えている。「AIで仕事がなくなる」という言説は、この数字の一面だけを切り取っている。本記事では2026年6月20日時点で確認できるデータをもとに、この数字の構造を分解する。

  1. McKinsey調査の「30%」は「回答者の30%が自部門の人員減を予測」という意味であり、「労働力の30%が消える」ではない
  2. 企業全体レベルでは43%が「変化なし」と回答しており、関数レベルの縮小と企業全体の雇用は別の話
  3. WEFは2030年までに1.7億の新規雇用創出と9,200万の喪失を予測(差し引き+7,800万)──「消える」と「変わる」は違う

「30%」は何を測った数字か

まず、この数字の出どころを正確に押さえる。

McKinseyのState of AI 2025調査(正式名称: The state of AI in 2025: Agents, innovation, and transformation)は、2025年6月25日から7月29日にかけて実施されたオンライン調査である(McKinsey発表による)。回答者は105カ国の1,993名。38%が年間売上10億ドル超の組織に所属している。各国のGDP比で回答を加重補正している。

調査では2つの異なるレベルで人員変動を聞いている。

レベル 過去1年(実績) 来年(予測)
ビジネス機能別(中央値) 17%が減少を報告 30%が減少を予測
企業全体(3%以上の変動) 32%が削減予測 / 13%が増員予測 / 43%が変化なし

「30%」はビジネス機能別の中央値である。つまり、マーケティング、カスタマーサービス、ソフトウェア開発など個別の部門ごとに聞いた回答を集計し、その中央値が30%だった。企業全体の雇用水準とは異なる。

ある部門の人数が減っても、AI関連の新規採用が別の部門で起きていれば、企業全体の雇用数は維持される。McKinseyの同調査によると、大企業ほどAI関連職(ソフトウェアエンジニア、データエンジニア)の採用を増やしている。

過去1年の実績と来年の予測のギャップ

注目すべきは、過去1年の実績値(17%)と来年の予測値(30%)の間に13ポイントの差がある点である。

これには2つの読み方がある。

読み方A:AI導入が加速し、来年は実際に減少幅が拡大する。 2025年は生成AIの組織導入が本格化した年であり、エージェント型AIの普及が予測される2026年にはさらに影響が広がる、という見方。

読み方B:予測は実績より大きく出る傾向がある。 企業の意思決定者は将来の変化を大きく見積もる傾向がある。2024年の同調査でも同様の傾向が見られた。来年になって振り返れば、実績は予測より小さくなる可能性がある。

どちらが正しいかは、2026年の次回調査が出るまでわからない。現時点では「実績は17%、予測は30%」という事実だけがある。

WEFの数字との突き合わせ

McKinseyの調査と並べて参照されることが多いのが、世界経済フォーラム(WEF)の「Future of Jobs Report 2025」(2025年1月発表)である。

WEFの調査によると、2030年までに:

  • 1億7,000万の新規雇用が創出される
  • 9,200万の既存雇用が喪失される
  • 差し引きで**+7,800万の純増**

WEF発表による。22業界・55カ国・1,000社以上、雇用者数1,400万人超が対象。)

9,200万の喪失は無視できない数字だが、同時に1億7,000万の新規雇用が生まれるという予測が同じ報告書の中にある。「AIで仕事がなくなる」という話をするなら、「AIで仕事が生まれる」という話も同じ根拠の上にある。

もう1つ、WEFは44%の労働者のコアスキルが今後5年で変化すると指摘している。仕事が「なくなる」のではなく、仕事の中身が変わる。同じ職種名でも、求められるスキルが入れ替わる。

日本の文脈

第一ライフ資産運用経済研究所の分析(星野卓也氏のレポート)によると、日本はそもそも人口減少による労働力不足が深刻であり、AI普及が進まない場合は2050年に約1,570万人相当の労働力不足が見込まれる。ソフトウェアAI+フィジカルAIが普及した場合は約1,340万人の余剰が生じるという推計もある。

つまり日本においては、「AIで仕事がなくなる」前に「人がいなくて仕事が回らない」という問題が先に来る可能性がある。この2つの力がどう相殺するかは、AI導入の速度と領域に依存する。

この記事を書いている人間の話

筆者(AI時短ラボ運営者)は、日常業務の大部分をAIと共同で行っている。この記事の調査もAIを使って行い、構成もAIと一緒に組んでいる。その上で言えることがある。

AIが代替したのは「作業」であって「判断」ではない。McKinseyの調査を読んで「30%が仕事をなくす」と要約するか、「30%は部門レベルの回答中央値であり企業全体とは違う」と書くかは、人間の判断である。AIはどちらの文章も書ける。どちらを選ぶかは書き手の責任であり、その責任はAIに移譲できない。

「AIで仕事がなくなる」が怖いなら、まずMcKinseyの元レポートを自分で読むことを勧める。数字の定義を確認するだけで、恐怖の半分は消える。残りの半分──自分のスキルが来年も通用するかという不安──は、レポートでは解消されない。それは各自が自分の仕事で検証するしかない。

出典・但し書き

出典:

但し書き:

  • 本記事は2026年6月20日時点の情報に基づく。McKinsey State of AI調査は毎年実施されており、2026年版の結果が出れば数字は更新される。
  • McKinsey調査の回答者は1,993名であり、世界の全企業を代表するものではない。GDP加重補正を行っているが、自主応募型オンライン調査であるため、AI導入に関心の高い層にバイアスがかかっている可能性がある。
  • WEFの「+7,800万」は予測値であり、実績ではない。予測の前提(技術進展速度、政策対応、教育投資)が変われば数字も変わる。
  • 日本の労働力推計(第一ライフ資産運用経済研究所)はシナリオ分析であり、AI普及の定義・速度によって結果が大きく変動する。
  • 筆者はAIツールを業務で使用しており、AI導入に対して中立ではない。この記事自体がAIとの協働で制作されている。
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