2026年6月21日 日曜日
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研究· 約11

生成AIと著作権──2026年の最新動向と企業が知っておくべきこと

AI生成物の著作権、学習データの権利処理、日米欧の規制動向を2026年6月20日時点で整理した。Thomson Reuters v. Ross控訴審、EU AI Act第53条の完全適用、日本の30条の4の解釈論争が同時進行している。

2026年6月20日時点で、生成AIと著作権をめぐる法的状況は3つの地域で同時に動いている。米国では学習データの著作権侵害訴訟が控訴審段階に入り、EUではAI Act第53条の著作権関連義務が2026年8月2日に完全適用を迎え、日本では著作権法30条の4の「不当に害する場合」の解釈をめぐる議論が続いている。企業がAIを使って事業を行う以上、この3地域の動向は無視できない。

  1. 米国:Thomson Reuters v. Ross Intelligence控訴審が2026年6月に第3巡回区で口頭弁論──学習データのフェアユースに関する初の連邦控訴審判断が出る見込み
  2. EU:AI Act第53条が2026年8月2日に完全適用──汎用AIモデル提供者は学習データの要約公開と著作権ポリシー整備が義務化
  3. 日本:著作権法30条の4は学習段階を広く許容するが、「享受目的」や「不当に害する場合」の解釈は未確定──国内訴訟の提起も視野に入りつつある

米国──訴訟の波と「フェアユース」の試金石

学習データをめぐる訴訟

2026年6月時点で、米国ではAI企業を相手取った著作権侵害訴訟が数十件進行している(Norton Rose Fulbrightによる)。

代表的なものを整理する。

訴訟 被告 状況(2026年6月時点)
Thomson Reuters v. Ross Intelligence Ross Intelligence 2025年2月、デラウェア連邦地裁がフェアユース抗弁を退け著作権侵害を認定(Sterne Kesslerによる)。Ross側が控訴し、第3巡回区控訴裁判所が2026年6月11日に口頭弁論を予定(AI Claudiusによる)。学習データのフェアユースに関する初の連邦控訴審判断になる見込み
New York Times v. OpenAI・Microsoft OpenAI, Microsoft 2026年1月、Sidney Stein判事がOpenAIに対し匿名化済みChatGPTログ2,000万件の全量開示を命令(Bloomberg Lawによる)。ディスカバリー段階が進行中
UMG他 v. Anthropic Anthropic 2026年1月、Universal Music等が31億ドルの損害賠償を求めて提訴。歌詞の無断学習を主張(Sustainable Tech Partnerによる)
BMG v. Anthropic Anthropic 2026年3月提訴。Bruno Mars、Rolling Stones等の歌詞を学習に使用したと主張(Norton Rose Fulbrightによる)

Thomson Reuters v. Ross判決で地裁は「学習目的の複製は変容的利用(transformative use)に該当しない」と判断した、とSterne Kesslerが報じている。この判断が控訴審で維持されるか覆されるかで、他の訴訟の方向性にも影響が及ぶという見方がある(Cleary Gottliebによる)。

AI生成物の著作権──「人間の著作者」要件

米国著作権局は、AIが単独で生成した著作物には著作権を認めないという立場を維持している(US Copyright Officeによる)。2026年3月には、連邦最高裁がStephen Thaler氏の上告を棄却し、AI単独著作物に著作権を認めない著作権局とDC巡回区の判断が確定した(Morgan Lewisによる)。

一方で、人間がAIを道具として使い、創作的表現を加えた著作物については登録が認められる場合がある、と著作権局は2025年1月の報告書で述べている(US Copyright Officeによる)。登録時にはAI生成部分の開示が求められる。

つまり「AIで生成したから著作権がない」のではなく、「人間の創作的関与がどの程度あるか」が判断基準になっている、という解釈が現時点では支配的とみられる。

音楽分野の和解事例

UMGがUdioと2025年10月に和解しライセンス契約を締結、Warner Music GroupもSunoと2025年11月に和解した、とNorton Rose Fulbrightが報じている。これらはオプトイン型(アーティストが参加を選択する形式)のライセンス構造を採用しているとされる。

EU──AI Act第53条と著作権コンプライアンス

2025年8月:第一段階の適用開始

EU AI Actの著作権関連義務は段階的に適用されている。2025年8月2日に汎用AIモデル(GPAI)提供者向けの義務が発効し、以下が求められるようになった、とClifford Chanceが報じている。

  • EU著作権法を遵守するポリシーの策定・実施
  • 学習に使用したコンテンツの「十分に詳細な要約」の公開
  • EU著作権指令に基づくオプトアウト(権利留保)表示の尊重

2026年8月:完全適用と残る課題

2026年8月2日には、大半の事業者に対してAI Actが完全適用される(Clifford Chanceによる)。

欧州委員会は、権利留保の表示方法について機械可読な標準プロトコルを策定するための関係者協議を開始している(Bird & Birdによる)。robots.txtの尊重もCode of Practice(行動規範)に含まれている。

ただし、欧州議会は2026年3月の決議で、現行の「十分に詳細な要約」要件を「まったく不十分」と批判し、クリエイターが自作品の学習利用を確認できるだけの情報開示を求める修正を提案している(Euronewsによる)。2026年5月7日にはDigital Omnibus合意が成立し、第53条の2026年8月期限は維持された(IP and Legal Filingsによる)。

この流れについて、「ウェブスクレイピングに主に依存してきたモデル提供者が、学習データのサプライチェーンを正規化する動きを見せている」とIP and Legal Filingsは報じている。

日本──著作権法30条の4の現状と限界

30条の4の基本構造

日本の著作権法30条の4は、AIによる学習(情報解析)を「非享受利用」として広く許容している。文化庁の「AIと著作権に関する考え方」によれば、AI学習のための著作物利用は原則として著作権者の許諾なく行える。

この規定は国際的にも「AI学習に対して寛容な法的枠組み」として注目されている、という指摘が複数の法律事務所の論考でみられる。

適用除外──「不当に害する場合」の解釈

ただし、30条の4には「著作権者の利益を不当に害する場合」の除外がある。文化庁の見解によれば、以下のケースでは30条の4が適用されない可能性があるとされている。

  • 過学習による画風模倣: 特定クリエイターの作品だけを意図的に学習させ、その画風を模倣するAIを作る場合。「享受目的」があると判断されうる
  • 有料データベースの無断複製: 対価を払って提供されているデータベースを、対価を支払わずに学習データとして複製する場合
  • RAGによる既存著作物の出力: 検索拡張生成(RAG)で既存の著作物をそのまま出力する仕組みは、情報解析と享受の目的が併存すると判断されうる

国内の動き

2026年6月時点で、日本国内ではAI学習に関する著作権侵害訴訟の判決は出ていない。しかし報道機関や出版社からAI事業者に対する問題提起が続いており、2026年中に国内での訴訟提起がありうるという観測が法律専門メディアで報じられている(法律のミカタによる)。

文化庁は2024年に「AIと著作権に関する考え方」を公表し、30条の4の解釈指針を示した。この文書は法的拘束力を持つものではないが、実務上の判断基準として参照されている。

企業が取るべき対応

上記の各国動向を踏まえると、以下の論点が実務上の検討対象になる。

学習データの権利処理

  • EUで事業を行う場合、2026年8月までにAI Act第53条への対応(著作権ポリシー整備・学習データ要約の公開・オプトアウト表示の尊重)が求められる
  • 米国ではフェアユースの範囲が訴訟で争われている途中であり、Thomson Reuters v. Ross控訴審の結果によって実務判断が変わりうる

AI生成物の権利帰属

  • 米国ではAI単独生成物に著作権は認められない。人間の創作的関与の程度と開示が求められる
  • 自社がAI生成物を事業に使う場合、著作権による保護を受けられるかは人間の関与度に依存する

日本固有の論点

  • 30条の4の「不当に害する場合」の解釈が今後の訴訟や行政判断で具体化される可能性がある
  • 自社が学習データを提供する側(権利者側)の場合、オプトアウトの意思表示やライセンス条件の明示を検討する余地がある

出典・但し書き

本記事は2026年6月20日時点の公開情報に基づく。法的助言ではない。

各訴訟の状況は日々変動しており、特にThomson Reuters v. Ross Intelligence控訴審(2026年6月11日口頭弁論予定)は、本記事執筆時点で判決が出ていない。判決が出た場合、本記事の記述と異なる展開になる可能性がある。

日本の著作権法30条の4の解釈については、文化庁の「AIと著作権に関する考え方」(2024年公表)を主な参照元としている。この文書は法的拘束力を持つガイドラインではなく、文化審議会著作権分科会の議論を整理したものである。

EU AI Actの適用日程については、2026年5月7日のDigital Omnibus合意を反映している。今後の立法手続きにより変更される可能性がある。

記事中の訴訟情報は、各法律事務所の公開論考・報道記事に基づく。裁判文書の原文を直接確認したものではない箇所がある。金額(31億ドル等)は報道ベースの数値であり、裁判所が認定した額ではない。

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