2026年6月26日 金曜日
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QualcommがTenstorrentを最大100億ドルで買収交渉中――RISC-V×AIチップでNVIDIA独占に挑む

Qualcommがカナダの AIチップ新興企業Tenstorrentの買収交渉を進めている。買収額は80億~100億ドル規模とされ、実現すれば伝説的チップ設計者Jim Kellerの率いるRISC-Vベースの AI半導体技術がQualcommのデータセンター戦略に加わることになる。

QualcommがカナダのAIチップ新興企業Tenstorrentの買収に向けた交渉を進めている。2026年6月16日付のReuters報道によると、買収額は80億~100億ドル(約1.2兆~1.5兆円)規模になる見通しだ。実現すれば、オープンな命令セット規格RISC-Vを基盤とするAI半導体技術と、伝説的チップ設計者Jim Kellerの率いるエンジニアリングチームがQualcommの傘下に入ることになる。

2026年6月26日時点で、両社ともに交渉の事実について公式なコメントを出しておらず、最終合意に至る保証はない。

取引の経緯

Bloombergが2026年5月18日に報じたところによると、Tenstorrentは投資銀行と協力して戦略的選択肢の検討を進めており、IntelとQualcommの両社が別々に買収への関心を示していた。この時点での想定評価額は50億ドル超とされていた。

その後6月16日、Reutersが「Qualcommが80億~100億ドルでの買収交渉に入った」と報道し、Qualcommが有力な買い手として浮上した形だ。The Registerによると、取引は現金と株式の組み合わせになる可能性があるが、パフォーマンス連動型のマイルストーン支払いが含まれるかどうかは不明だとされている。

Tenstorrentは同時並行で新たな資金調達ラウンドの交渉も行っているとBloombergは伝えており、完全売却と追加出資の両方を選択肢として検討しているとみられる。

Tenstorrentとは何者か

Tenstorrentは2016年にカナダで設立されたAIチップ企業で、2023年1月からJim KellerがCEOを務めている。PR Newswireによると、2024年12月にSamsung SecuritiesとAFW Partnersが主導するSeries Dラウンドで6億9,300万ドル以上を調達し、評価額は約26億ドルに達した。Bezos Expeditions、Fidelity、LG Electronics、Hyundai Motor Groupなども出資している。

同社の技術には2つの柱がある。

AIアクセラレータ:Galaxy Blackhole

The Registerの2026年4月28日の報道によると、Tenstorrentは同月にGalaxy Blackhole AIサーバーの一般提供を開始した。主な仕様は以下のとおりだ。

  • 32基のBlackholeチップを搭載した6Uシステム
  • 23ペタFLOPS(Block FP8)のAI演算性能
  • 1TBのGDDR6メモリ、16TB/sのメモリ帯域幅
  • 価格は11万ドルから

WCCFTechによると、DeepSeek R1-0528(671Bパラメータ)の推論で350トークン/秒超を達成し、トークンあたりコストは100万トークンあたり約6ドルと、NVIDIAのGB300システム(同約30ドル)の約5分の1だと同社は主張している。NVIDIAの8基構成DGXサーバーは同等性能でGalaxy Blackholeの3~5倍の価格帯とされる。

RISC-V CPUコア:Ascalon

Tenstorrentはサーバー・インフラ向けの高性能RISC-V CPUコア「Ascalon」も開発している。EE Timesによると、LGやHyundaiにIPライセンスを供与しており、これまでの受注の多くはIPライセンス事業によるものだ。

Jim Kellerという存在

Jim Kellerは半導体業界で40年のキャリアを持つチップ設計者であり、Fortuneの報道などによると、その経歴は業界の転換点と重なってきた。

  • DEC:Alpha プロセッサファミリーの設計に従事
  • AMD(第1期):K7(Athlon)、K8(Athlon 64)の設計を主導。x86-64命令セットとHyperTransport規格の共同策定者
  • Apple:A4・A5チップの設計チームを率い、iPhone 4やiPadの心臓部を作った
  • AMD(第2期):Zenアーキテクチャの開発を主導。後のRyzenシリーズの基盤となった
  • Tesla:自動運転向けFull Self-Drivingチップの開発を率いた
  • Intel:シリコンエンジニアリング部門のSVPとして製造問題の改善に取り組んだ

EE Timesが報じた通り、Kellerは2023年にTenstorrentのCEOに就任し、「オープンなAIハードウェア」というビジョンを掲げている。買収が実現した場合、Keller本人の処遇や残留の有無が取引の成否を左右する重要な要素となる。

RISC-Vがなぜ重要なのか

Tenstorrent買収の核心は、同社がRISC-Vアーキテクチャに賭けている点にある。

RISC-Vは誰でも無料で利用できるオープンな命令セット規格(ISA)だ。PatentPCの調査によると、ARMのライセンスは通常チップ価格の1~2%のロイヤリティに加え、数百万ドルの前払いライセンス料が必要になる。RISC-Vではこのコストがゼロになり、その分を独自設計やR&Dに振り向けることができる。

2026年時点で、RISC-Vはプロセッサ市場の約25%を占めるまでに成長したとの推計がある(Financial Content報道)。特にAI推論・学習用チップの分野では、x86やARMが持つ既存ソフトウェア資産の優位性が薄く、RISC-Vが最も商業的に有望な市場とされている。

Qualcomm、Google、Meta、Intelなどの大手が投資を拡大しており、Digitimesによると、RISC-Vは「AIにおける第三の選択肢」としての地位を固めつつある。

Qualcommの戦略的意図

この買収交渉は、Qualcommが進めるデータセンターAI事業への大規模な進出の一環として位置づけられる。

NVIDIAへの対抗軸

HNGNの2026年6月25日の報道によると、NVIDIAは現在データセンター向けAIチップ市場の約92%を握っている。Qualcommは2029年までにデータセンターAI事業で年間150億ドルの売上目標を掲げており、推論ワークロードにおけるエネルギー効率とコスト優位性で差別化を図る方針だ。

Qualcommは既にAI200・AI250チップを発表しているが、Tenstorrentの買収が実現すれば、すでに商用稼働しているGalaxy Blackholeプラットフォームと実績あるAIアクセラレータ技術が加わることになる。

Modular買収との組み合わせ

注目すべきは、Qualcommが2026年6月24日にAIソフトウェア企業Modularの買収を発表(約39億ドル、全株式交換)している点だ。Qualcommの公式発表によると、ModularはNVIDIA GPU向けCUDAコードを他のチップでも動作させるハードウェア非依存のコンパイラ技術を持つ。

TechTimesは、Modular(ソフトウェア層)とTenstorrent(ハードウェア層)の両方を手に入れれば、Qualcommは「CUDA+NVIDIAチップ」という垂直統合に対抗するオープンなAIコンピュートスタックを構築できると分析している。両取引を合わせた投資額は約140億ドル規模になる。

ARMライセンスリスクの軽減

Qualcommは現在、モバイルチップ事業でARM のライセンスに依存している。RISC-Vベースの設計能力を内製化すれば、ライセンス交渉上の立場が強まり、長期的なコスト構造を改善できる可能性がある。

但し書き

  • 2026年6月26日時点で、QualcommとTenstorrentの両社は交渉について公式コメントを出しておらず、最終合意に至る保証はない
  • 買収額の80億~100億ドルという数字はReuters報道に基づく関係者の情報であり、確定した金額ではない。パフォーマンス連動型支払いの有無も不明
  • IntelもTenstorrentに関心を示しているとBloombergが報じており、競合入札の可能性が取引の行方に影響する
  • Tenstorrentが主張するNVIDIA GB300比でのコスト優位性(5分の1)は同社自身のベンチマーク結果であり、独立した第三者による検証結果ではない
  • Jim KellerがQualcomm傘下で残留するかどうかは公表されておらず、同氏の処遇は取引成否の重要な変数となる
  • RISC-Vのプロセッサ市場シェア「約25%」は推計値であり、集計方法によって数字は変わりうる
  • 規制当局の承認(特に米国・カナダの独禁法審査)が必要になる可能性が高く、審査の結果次第では取引条件が変更される、あるいは成立しない可能性がある
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